















新技術とホラアナ
溝の口駅前に建つ、住戸と兼用店舗、専用店舗からなる建物である。この敷地に建っていた家は馬坂という屋号で呼ばれ、周囲には兎坂、馬坂という未舗装の坂道があり、裏山の先の街区への抜け道として使われていた。
「溝の口のまちづくりに貢献したい」「先祖代々親しみ、神聖さも感じてきた雑木林をより多くの人に開いて活用したい」「いつしかみどりに埋もれ、人びとがどこか懐かしさを感じるような建築にしてほしい」これらのオーナーの要望に応えるべく、樹高20mを超えるケヤキ、エノキ、シラカシ、モミジの樹冠を縫うような平面を思い描き、兎坂、馬坂に並ぶ第3の坂道のように建築を作れないかと考えた。住まいや店舗を内包し、近づいた枝葉の下で人びとが交わる、公共的な通路とプライベートな憩いの場の結節点のような場所である。
建築は既存樹の間をうねり、既存地盤を植生ごと掬い取ったような屋上スラブが地盤の傾斜なりに新たな坂を作る。3次元曲面の屋上スラブは3Dプリンターで製作された型枠によって形成されており、お椀型の深い植栽基盤を生み出す。空中歩廊には現場土を混ぜ込み、グラウンドレベルから地続きのように感じられる、露地のような庭を作庭した。各住戸やテナントは屋上付きのメゾネットであり、空中歩廊からそれぞれの塔屋にアプローチすることもできる。地上部と塔屋というふたつの出入口を住まい手はそれぞれの暮らし方に沿って使い分けることができ、2期計画ではテナントとの協業により外構が整備され、頃合いを見て建築のエンドにブリッジが架かり兎坂に繋がる。時間の経過と共に空中歩廊にはやがて住まい手や店舗の気配が滲み出し、通り道でありながら誰かの庭のようでもある、半公共的な場に育っていくことだろう。おのおのの屋上テラスをお茶室と見立て、客人を迎えて野点を楽しんだり、ガレージセールのようなポップアップショップの顔を作るなど、一般的な公道よりも責任を持って管理されることを期待している。
みどりに埋もれるような建築をつくるため、ヴォリュームの出隅を曖昧にする、お椀型のスラブで梁を隠すなど、建築らしい現れを軽減させるためのデザインを行ってきた。上下左右に通じた洞穴のような空間で入居者は、開口部を通じて外部と関わり、生活の質や商いの性格を決定する。
3Dプリント技術により実現した有機的なスラブがみどりと建築の距離を縮め、建築は希薄な存在として雑木林の中に佇む。この取り組みが、人びとの共感を呼ぶ、建築とみどりの新たな関係に繋がっていくのだとしたら嬉しい。
| 竣工 | 2026年 |
| 所在地 | 神奈川県川崎市 |
| 用途 | 店舗・賃貸住宅 |
| 構造 | RC造 |
| 敷地面積 | 2,361.52㎡ |
| 建築面積 | 441.05㎡ |
| 延床面積 | 674.47㎡ |
| 階数 | 地上2階 |
| 意匠設計・監理 | 古谷デザイン建築設計事務所/古谷俊一 秋真人 伊藤丈治 茂木大樹 |
| 構造設計 | KAP/萩生田秀之 坂田真 中村優 |
| 植栽計画 | みどりの空間工作所 担当/古谷俊一 |
| みつや園 担当/三家恵伍 | |
| PLANTED 担当/三輪 善昭 | |
| 施工(建築) | 栄港建設/渡井孝浩 南昌幸 |
| 設備工事 | 相設/相澤有一郎 相澤行廣 |
| 電気工事 | 湯山電設/加藤隆之 |
| 外構・造園 | みつや園/三家恵伍 |
| PLANTED/三輪 善昭 | |
| 家具 | 松本家具製作所 鈴木智貴 |
| 型枠工事 | 井定工務店 藤田昌大 |
| 諏訪間工務店 諏訪間三明 | |
| DigitalArchi 松岡康友 平田洋一 | |
| 防水工事 | ヤマモト工業 山本浩文 |
| 木工事 | タケフジ 斎藤一久 |
| 鋼製建具 | 総武 三星好美 |
| 金物工事 | 高野組 高野久志 |
| コンクリート塗装 | 藤工業 安藤太郎 |
| 塗装 | 竹内塗装 竹内大 |
| 左官 | 水澤左官 水澤太一 |
| 木製建具 | 建具屋義 長野義信 |
| 撮影 | 山内紀人 |