「niwa」で生まれた協奏
庭とは建築に付随する自然の縮小系であり、時代の変遷によりその形は変容を遂げている。極めて都市化された東京のような場所にあっては,特に不動産経済のあり様に左右され建築と庭の関係は極めて近接、あるいは一体化されている趣が強い。
もはや庭は建築を取り巻く周囲の人工の環境(周囲の家々、道、緑など)こそがそうであり、触れたいみどりはインドアに移行している。
クライアントとの設計プロセスは施主と設計者の関係を超えて,建築と庭の関係を共創する作業になった。
クライアントとの関係は,私がIDEE在籍時に東急東横線多摩川駅前の東急ラケットクラブ跡地(旧多摩川園)で行われた25年前の「田園調布パブリックガーデンフェア」まで遡る。独立以降,彼らが自治で運営することを前提とした「さかさ川通り」の道路づくりに関わる。その他多くのプロジェクトの中で彼らの都市や建築に対する哲学を学んだ経緯から、われわれが本プロジェクトにおいて主体性を持ってプログラムの構築から設計までを行うのは必然であった。
建築はできた時にその存在価値が街に発揮されるとするならば、この建築はniwaと名付けられたように建築になりきらないことを目的とする。建築の形に留まらず植物の成長のように時間の経過をデザインしていきたいわれわれの思考とも合致した。
歌うように都市論(生活の場の探求)を展開するクライアントのタクトに促されるように演奏者たる建築家の設計は進んだ。演奏者には建築家のみならず多くのクリエーターが参加した。
建築が外部に拡張することを意図しデザインされたテキスタイルが、植物と共に内外が入り混じった空間を実現している。建築の箇所を場所化するように命名されたサインデザインやその中のKURAから漏れる光、土色のタイルなど個々のクリエイティブが建築のコンセプトを補強する。路地の植木鉢のような対話を生む植物のあり様は時間の経過と共に建築を建築たらしめる輪郭をぼやかすだろう。
これらと並行して,建築の構造とそれを構成する部材があえて不協和音を演出するように設計、採択,構築されていったことは建築家と構造家、施工者の協業の証である。
創造の結晶が何某かの煌めきを放ち、クライアントのいう「街の灯台」のような存在になれるならば設計者冥利に尽きる。
竣工 | 2024年5月 |
所在地 | 東京都大田区蒲田 |
用途 | 店舗・事務所・倉庫 |
施工者 | 栄港建設 |
構造 | RC造+鉄骨造 |
敷地面積 | 104.34㎡ |
建築面積 | 86.14㎡ |
延床面積 | 168.40㎡ |