蒲田の複合ビルプロジェクト

niwa

niwa project

南側外観 1階には地域の祭具倉庫、1・2階に飲食店、3階に地域の集会所が入る。建築、テキスタイル、照明、サイン、タイル、植栽まで、多様なクリエイターの共同により設計。
南西外観 1階は前面に倉庫,奥に飲食店スペースが入る。
1、2階は鉄筋コンクリート造、3階が鉄骨造。それぞれの階をずらして積層することで、各階に外部空間を生み出した。
前面の倉庫は平時閉ざしているが、引戸の上部に設けたお椀型の開口から、夜間には通りに光が漏れ出す計画とした。
ライティングデザインは加藤久樹氏。
3階への外部階段から見た2階の庭。外部空間から前面通りへと視線が抜ける。空間を覆うテキスタイルデザインは安藤陽子氏が手掛けた。12mm幅のリボン上のキャンバス生地を刺繍の技法で編み込んだ。廊下のタイルは玉川幸枝氏がデザイン。岐阜県の瑞浪市で生産された。植栽プランニングは川瀬瑠亜氏が担当し、国内での流通経路に乗らない果樹やハーブなど多様な植物を植えこんだ。また、逆梁とした構造が植栽のための土厚を確保している。
2階共用廊下〈ROJI〉 写真正面の内部空間は2階飲食店の個室
軒天はアルミ板貼り仕上げ、3階の外壁は波板スレート、端部はR型に加工された既製品の波板ラジアルスレートをカットして組み合わせる構成とした。3階ボリュームは2階飲食店の個室側を70角の鉄骨無垢柱で支え、下階との視覚的な縁を切り浮遊しているような様相を目指した。
サインは永井裕明氏によるもの。
3階 植栽を慣らすための屋根付きスペース
南側夕景 周囲に漏れ出るような照明デザインは加藤久樹氏によるもの。施主が持つ隣地の駐車場ビルにも「niwa」を照らす照明を設置。
さかさ川通りから建物を見る。
3階集会所〈idobata〉 前面路地に面した大きな開口部から蒲田の街を見通すことができる。
広域配置図
1階平面図
2,3階平面図
断面図

「niwa」で生まれた協奏

庭とは建築に付随する自然の縮小系であり、時代の変遷によりその形は変容を遂げている。極めて都市化された東京のような場所にあっては,特に不動産経済のあり様に左右され建築と庭の関係は極めて近接、あるいは一体化されている趣が強い。
もはや庭は建築を取り巻く周囲の人工の環境(周囲の家々、道、緑など)こそがそうであり、触れたいみどりはインドアに移行している。
クライアントとの設計プロセスは施主と設計者の関係を超えて,建築と庭の関係を共創する作業になった。

クライアントとの関係は,私がIDEE在籍時に東急東横線多摩川駅前の東急ラケットクラブ跡地(旧多摩川園)で行われた25年前の「田園調布パブリックガーデンフェア」まで遡る。独立以降,彼らが自治で運営することを前提とした「さかさ川通り」の道路づくりに関わる。その他多くのプロジェクトの中で彼らの都市や建築に対する哲学を学んだ経緯から、われわれが本プロジェクトにおいて主体性を持ってプログラムの構築から設計までを行うのは必然であった。

建築はできた時にその存在価値が街に発揮されるとするならば、この建築はniwaと名付けられたように建築になりきらないことを目的とする。建築の形に留まらず植物の成長のように時間の経過をデザインしていきたいわれわれの思考とも合致した。

歌うように都市論(生活の場の探求)を展開するクライアントのタクトに促されるように演奏者たる建築家の設計は進んだ。演奏者には建築家のみならず多くのクリエーターが参加した。

建築が外部に拡張することを意図しデザインされたテキスタイルが、植物と共に内外が入り混じった空間を実現している。建築の箇所を場所化するように命名されたサインデザインやその中のKURAから漏れる光、土色のタイルなど個々のクリエイティブが建築のコンセプトを補強する。路地の植木鉢のような対話を生む植物のあり様は時間の経過と共に建築を建築たらしめる輪郭をぼやかすだろう。

これらと並行して,建築の構造とそれを構成する部材があえて不協和音を演出するように設計、採択,構築されていったことは建築家と構造家、施工者の協業の証である。

創造の結晶が何某かの煌めきを放ち、クライアントのいう「街の灯台」のような存在になれるならば設計者冥利に尽きる。

竣工2024年5月
所在地東京都大田区蒲田
用途店舗・事務所・倉庫
施工者栄港建設
構造RC造+鉄骨造
敷地面積104.34㎡
建築面積86.14㎡
延床面積168.40㎡
History
History