








既存建築への共鳴
本計画はこの場所に愛着を持つオーナーの思いと吉阪隆正氏の設計思想(野沢温泉ロッヂ、1969年)に敬意を払ったアンサーソングである。
本州では希少なパウダースノーと温泉街の雰囲気が人気の野沢温泉村は長期滞在する外国人観光客が多く訪れている。吉阪氏設計の本館は地元では「アボカドハウス」などと呼ばれ、古くから野沢温泉村のシンボルとして存在しており、元アルペンスキーヤーのオーナーが幼い頃から親しみを持っている原風景でもあった。その本館が持つ親密さを増長し共鳴するようなものであるためにはどのような建築がふさわしいのか。機能を充足しつつ見た目に愛らしく長く親しまれる場所になってほしい。冬の野沢温泉でそんな全体像を夢想する時、降り積もる雪景色に同化し消えてしまうようなアノニマスな情景が浮かんだ。形態は踏襲しつつも、本館の板金屋根とコントラストをつけた白い外壁は雪景色と同化する。吉阪氏の建築との関係は、盆栽における主幹と副幹のような主従の関係をイメージした。雪下ろしの軽減を目的とした建築形態は、3mを超える積雪を受け流すことで荷重を低減し一般流通材による架構を可能とした。さらに耐震要素の筋交いは、本館をオマージュであえて開口部に設置している。
本館は細かな個室群の構成であるのに対して、新館では家族で長期滞在する海外からのゲストをターゲットとし、3階スペースは窄まった屋根裏スペースも有効化し5~7名がゆったりと滞在を楽しめる空間を設計している。敷地至近の長坂ゴンドラに乗り頂上に向かう高揚感と同様に、滞在者が周辺の景観を楽しみ、村の文化に触れるゴンドラ的空間になることを望んでいる。本館の建築の際は20人規模の大工さんが集結し、地元の体育館で原寸図を書き起こし、難しいおさまりを解決していったという。今回新館も、オーナーと意を共にする地元大工さんの紹介により縁を繋ぎ、着工に漕ぎつけている。ふたつの建築が今シーズン動き出した。落ち着いた頃には本館の改修も行う予定である。
【野沢温泉ロッヂの継承とまちへの展開】
雪下ろしの苦労をなくしたいという要望と多くのスキー客を収容するという目的のもと、巻貝のようにプランニングされた野沢温泉ロッヂ。元アルペンスキーヤーの現オーナーは昔通った歴史ある野沢温泉ロッヂが建て替えられるという情報を聞き、即座に元オーナーに引き継ぎたい意思を告げたという。元オーナーが慣れ親しんだエリアに住めるように隣接地を購入して新規に住宅を建設し、この野沢温泉ロッヂを継承した。
外国資本により既存のまちの文脈が壊されている事例も散見される中、野沢温泉村では既存の温泉街のよさを残しながら新しい施設が塩梅よく成立している印象がある。オーナーの関わる事業「野沢温泉企画」は、既にある村の機能と重複して競合する状況とせず、共存できるかたちで事業を進めていることもその一助になっているのであろう。外国人資本家とも協働し、敷地目の前にある六軒清水の湧水を利用した蒸留所やコーヒー製造販売店、バーなど、地域資源を活かしたプロジェクトを展開している。
所在地 | ⻑野県下高井郡野沢温泉村 |
竣工 | 2023.10 |
施工者 | トライワークス |
構造 | 木造 一部 RC造 |
敷地面積 | 93.39㎡ |
建築面積 | 64.65㎡ |
延床面積 | 173.85㎡ |
階数 | 地上3階 |
