農園(生産緑地+宅地)の再編計画である。
農園内には大きな庭園木に囲まれた明治期の母屋と土蔵を中心に農作業小屋や温室などが散在しており、その古い母屋と土蔵蔵は長く形骸化している状態にあった。
そんな折、収益物件の建築を柱に農園再編の依頼を受けた我々はオーナーが趣味で育てているバラや季節の草花とともに、こだわりの農作物が育てられている景色を目にすることになる。そこには鳥の餌台がそこかしこにあり、愛猫や愛犬が敷地内を闊歩している幸せな光景であった。そこで我々はその生活の支えになっている農作業と草花や樹木を景観とし、そのライフスタイルをお裾分けしてもらえるような賃貸住宅を作れないかと考え、形骸化していた置き屋根の土蔵蔵に着目した。
1901年築の土蔵の佇まいを頼りに賃貸住宅4戸と農作業小屋が連なる建築を提案。それぞれのボリュームの間にはみどりのお裾分けを享受できる空間を設えることとした。それはコンサバトリーであり、デッキテラス、ルーフテラスであり、パーゴラであり、それらが一体となったLDKである。蔵は水廻りを増築しオフィスとして賃貸。そこかしこに待合のベンチ、接道部に野菜売り場を計画するなど、適度な街への開き方を模索している。
敷地内の樹木はおおよそ元のままであり新しい建築がお邪魔した格好になっている。オーナーと住まい手のプライバシーは既存樹木や混ぜ垣によって緩やかに確保され、気配や育った植物の佇まいを共有することができる。
外壁にはメーカーの実験材料を採択。セメントの白化現象を適度に引き出し経年変化をする大判の外壁材である。日本の街並みを形成しているサイディング材料の可能性を引き出し緑地と住宅の幸せな形を生み出すモデルケースとなりたいと考えた。
かつてこの地には水車が回り、農村の風景としてシンボル化されていた歴史があったという。灌水や脱穀などの生業を示す水車の回転のようにみどりと建築のリズミカルな景観が時を隔ててそのような存在になれていけるのだとしたら嬉しい。
所在地 | 神奈川県川崎市 |
竣工 | 2021.04 |
主要用途 | 長屋+工場(農作業小屋) |
施工 | 栄港建設 |
敷地面積 | 872.89㎡ |
建築面積 | 236.55㎡ |
延べ床面積 | 365.71㎡ |