大地が隆起したような建築

たがやすいえ

House to Cultivate

俯瞰写真。建築とともに将来尾根が復元される
建築を遠望する。切り崩され露出した岩盤の風合いに馴染む外観を求めた
南側より見る。風の抜ける尾根に同調する守られた住処
北側立面
鋸山の石切場の文脈を踏襲した北側開口部の表現
エントランスよりリビングを見通す
リビングの開口より山と海を見る。穏やかな海を海運線が横切る
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建築のボリュームのずれがそのまま開口となる
配置図
平面図
断面図

キャンプベース外観。赤みのある幹の色に合わせた外壁とした
キャンプベース2階の屋根裏部屋。夜空を見るためのトップライトを設けた

失った尾根を復元するように建つ

千葉県富津市。大胆に尾根が削り取られかろうじて平地を確保した敷地にこの家は建つ。 南に鋸山(ラピュタの壁)、⻄に三浦半島、伊豆半島そして富士山、⻄南に伊豆大島、北に東京湾を望む四方に開けた 山頂の景観である。 クライアントのご夫婦は海と山が近いご出身神戸の原風景と似通ったこの土地を選んだ経緯がある。いくつかの平坦地がある中で、我々は正面にぽっかりと口を開ける海原と⻄日に生える鋸山(ラピュタの壁)を同じ視野角に収めるポイントを探り、崖の安息角に留意しながら建つべき建築の位置を設定した。かつて房州石の採石のため栄えた石切場は切削の形状が窓のようにそのまま残され、自然発生的な建築かのように敷地の景観の一部となっていた。日の傾きにより突如光り輝くその様は人為と自然の融合に対する賛美のようであり、建築意匠計画の最大与件と考えるに至った。そしてその景観の中で建築は削り取られた尾根を復元するかのようにどっしりと裾を拡げたように建ち、 周囲の植物とともに新たな尾根を形成していくだろう。 東京と富津。二地域居住の中心となる安息のリビングには石切場のような大きな開口が穿かれ、東京湾に入出港する大型船がゆっくりと行き交う様は空間と時間が一体化され心が休まる。大地の色味と親和性を持たせたコンクリートの量塊は太陽の傾きにより刻々と表情を変える。その質感や表情はそのままインテリアへ貫入し吟味されたアンティーク家具とともに 安寧の時間を生成する。
家族やキャンプ仲間が集まり人と場を耕し、猿や鹿に荒らされた庭を耕し直し、森の奥に礼拝堂を建てたいというようなクライアントの夢も耕し続けていくだろう。

たがやすいえ:手に余る広大な土地を耕し育てていく。文化創造に関心を強く持つクライアントの精神を反映して、文化「culture」の語源が、耕す「cultivate」であることからも。

所在地千葉県富津市
竣工2022.09
施工者笹原工務店
構造RC造
敷地面積18,775㎡
建築面積195.35㎡
延床面積180.27㎡
panorama
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