この住宅は、2011 年に竣工した 「大森ロッヂ」 のエントランスをかたちづくる住宅である。大田区大森西にある 「大森ロッヂ」は、昭和の趣きを残す木造長屋に光を当て、2009 年より順次現代の生活に寄り添い改修。高気密高断熱主義とは距離を置いた価値を発信し、自立共愉を目指して、 入居者イベントなどを通して暮らしそのものを問い続けている。そして 2015年に店舗付き長屋 「運ぶ家」がその側に完成する。買うか借りるかという二元論を超え、住まい手が単なる賃借人に収まらず、オーナー、設計者と共に賃貸事業にコミットし、 住まいの質を向上し合い続ける関係を構築している。その象徴である燃え代設計の木造柱に支えられた空中のヴォイド空間は、街と空間をシェアするように存在している。 2019 年には設計者の自邸である「インターバルハウス」が完成。「運ぶ家」の双子のような建築であるが、大森ロッヂを含む街の庭のような建築をつくりたいと考え、年々緑に凌駕される景観が街の庭としてシェアされる存在への成長を感じる。この「笑門の家」では、街角にインナーガーデンを設け、住まい手の営みがそのまま街角を形成する。既存の下屋およびバルコニーを含めた空間を解体し、風景をつくっていた根拠(構造)は残しつつ、温室フレームで包み込むこと で街と住まいの間の緩衝帯(庭)を設け、人の気配や温熱環境を住まい手自らが調整する。パブリックの入り具合、自己と他者がシェアする深度をも自ら調整をするのである。そうしてそのミセ空間では住まい手がその住まい方をプレゼンテーションする場として活用することができる。店や教室、作業場やオフィススペースなど、ポケットパークのような街 角の一面がプライベートともパブリックともつかない性質を帯びて、 その中庸なスタンスがそのまま顔になり、街の中で 共有される。たとえばの話。近所の人がこの家に目を止める。扉は開いており店のようで、中を覗くと植物屋さんだと分かる。そこ で住まい手との会話が生まれ、この住み方に対する考えを聞くかもしれない。そうして買って帰った植物を人通りのある自身の家の庭先に植え込み、街行く人たちにその花を楽しんでもらおうと考える。そんなふうに個々人が楽しく暮らす様が街の活力に繋がる家を目指している。
所在地 | 東京都大田区 |
竣工 | 2022.03 |
施工 | 日起 |
敷地面積 | 102.14㎡ |
建築面積 | 60.86㎡ |
延床面積 | 98.12㎡ |
階数 | 地上2階 |